職人の技とハイテクノロジーの結晶。数字でひもとく新生「アバンギャルドスケルトン」

2023年6月9日

2023年6月、オリエントスターの「アバンギャルドスケルトン」がよりソリッドでコンテンポラリーなデザインとなって登場しました。このデザインには、セイコーエプソンが持つ先端技術と職人技の双方が不可欠でした。シリコン素材の加工、金属の成形、そして外装の仕上げなど、持てる技術を動員してこそ到達できたデザインです。開発陣の証言から浮かび上がってきた鍵となる数字とともに、アバンギャルドスケルトンの魅力に迫ります。

文:with ORIENT STAR 編集部

創作の源泉は、尽きることのない無限大の探究心

人類は太古より宇宙に神秘性を感じ、その謎を解明するために今もさまざまな研究・開発が続けられています。宇宙分野の最先端の機器やテクノロジーは、先人たちが築き上げてきたまさに人類の叡智と言えるものです。「輝ける星」を標榜するオリエントスターをそれになぞらえるならば、先代の開発者たちの功績に拠って立ちながら、さらに現代の技術や知恵を駆使して新しい境地へと到達したのが「アバンギャルドスケルトン」だと言えます。それらに通底するのは、未知のものに対する飽くなき好奇心、無限大の探究心に他なりません。

ネーミングが示す通り、アバンギャルドスケルトンはオリエントスターの中で最も大胆さや前衛性が感じられるモデルです。それらのスピリットがどこにどのように現れているのか、鍵となる数字とともにひも解きます。

魅惑のブルーを生み出すナノレベルのこだわり

このモデルには、オリエントスター初となるシリコン製がんぎ車を搭載した自動巻きキャリバーが採用されています。シリコン製がんぎ車は、重量が通常の金属製がんぎ車の3分の1程度と軽量で、さらに加工精度が良いため隣り合うアンクルと接する部分(係合量)を最小限にできることから、エネルギー損失を極限まで減らすことが可能になりました。結果的に、自社製の自動巻きとしては最長となる60時間のパワーリザーブを実現しています。

シリコンを使う最大のメリットは、その性能面にありますが、開発陣はさらに一歩先へと踏み入りました。それが魅惑的な透明感のあるブルーの実現です。「輝ける星」を標榜し宇宙をイメージソースとするオリエントスターは色にブランドの“らしさ”を求め、天の川銀河のような美しいブルーを目指したのです。

しかしながら、そのブルーを実現するためには表面に3層構造となっているそれぞれの膜厚を、±5ナノメートルレベルで制御しなければなりませんでした。1ナノメートルは10億分の1メートルで、例えば地球の大きさの10億分の1はビー玉程度の大きさになります。この絶望的とも思えるような精度を満たして完成したのが、オリエントスターのシリコン製がんぎ車です。一般的なシリコン製がんぎ車には紫などが多く見られますが、このような美しいブルーの陰には最先端のテクノロジーとこだわりがあるのです。

機械技術を凝縮した最新・最上位の自動巻き

F8F64キャリバーは、オリエントスターが半世紀以上にわたって開発し続けてきた46系キャリバーの最新機です。

46系キャリバーが誕生したのは昭和46(1971)年のこと。最初のキャリバーは40時間のパワーリザーブを備えた自動巻きでした。これをベースに、パワーリザーブの延長、仕上げの美しさの追求、極限までくり抜いたスケルトン仕様、さらにはムーンフェイズなどの機構を付加したものまで、46系キャリバーはさまざまな進化を遂げてきました。長い歴史の中で積み上げられてきた進化が46系キャリバーの特徴であり、それは同時にオリエントスターの信頼性の高さにもつながっています。

最新のF8F64キャリバーは、前述したシリコン製がんぎ車の恩恵を受けてエネルギー効率が向上し、その分、ぜんまいの厚みを薄くし巻き上げ量を増やすことが可能になりました。その結果、パワーリザーブが60時間へと向上したのです。また、ぜんまいの残量が少なくなってもトルクの低下が小さいため、安定した精度も実現した最新・最上位の自動巻きキャリバーです。

一見アバンギャルド、その実、精緻なパーツの集合体

アバンギャルドスケルトンを見てまず目を引くのが、文字板のデザインではないでしょうか。文字板の大部分をくり抜いて内部のムーブメントを見せる、このモデル最大の特徴です。

文字板をくり抜く際に直面するのが、強度との兼ね合いです。文字板はムーブメントを支える役割も担っており、その強度が低いと、時計を落とした際などに生じる応力によって変形してしまう可能性があるからです。今回、アバンギャルドスケルトンでデザイナーが意図したのは、電波望遠鏡などで見られる精緻かつ強靭な構造物や、地球の上空から見た近代都市といったモダンで軽やかなイメージです。軽やかさと強度を両立するために、設計、製造、技術の各チームが一丸となって編み出したのが、意匠性を求める上板と、主に強度を確保するための下板の2層から成る文字板でした。

開発陣は、2枚の文字板の形状や固定方法を試行錯誤し、下板のみ硬質なリン青銅を採用するなどして、意匠性と強度を両立。また、文字板の面積が小さくなるため、そこに載せるパーツも細分化して、それら一つ一つに丁寧な仕上げを施しました。文字板だけでパーツ数は18を数え、ケースやバンドなどの外装部品を含めるとその数は131に上ります。アバンギャルドスケルトンは一見、大胆なデザインが際立ちますが、その実、精緻に仕上げられた繊細なパーツの集合体なのです。

熟練職人の手仕事が生む美しい筋目と鏡面のコントラスト

幅広のベゼルに施されたサークル状の筋目や、カン足に見られる直線的な筋目、そしてベゼルやカン足の輪郭を際立たせるように配された鏡面ザラツ仕上げ。アバンギャルドスケルトンは金属素材の美しい仕上げや、そのコントラストが織り成す高級感が味わえるモデルです。

ケースやベゼルなどの外装部品は、まず高精度工作機械で金属を削り出し、その後職人の手で一つ一つ仕上げられます。機械加工された金属を洗浄した後、手作業ですべての面を鏡面に仕上げ、その上で筋目の加工を行います。職人は、サンドペーパーに部品を一つずつ丁寧に押し当てて筋目を付けていきます。鏡のように磨き上げた面に筋目を入れていくのは何とももったいない気がしますが、例えるならば、平たくならした白砂に波模様などを描く枯山水のイメージでしょうか。そのひと手間が美しい筋目を創出しているのです。

いくつか種類がある研磨加工の中でも、この筋目加工は最も難しく、熟練の技術を要する加工の一つです。筋目の向きや深さを均一に揃えるのが難しく、また少しのズレで筋目を入れる必要がない鏡面部分まで筋目を付けてしまうことがあるからです。この筋目加工は社内の技能試験をパスした者だけが担うことができ、そのレベルに達するまでには少なくとも6カ月の鍛錬を要します。最初の研磨加工から最後の仕上げの筋目加工まで、一つのケースを仕上げるのに要する時間を合算すると、約25時間。職人の労力を知るとその価値が一段と増してきそうです。

さて、今回話を聞いた開発陣の思いを総括すると、精度や性能を超えて感性的な価値を追求した点が、このアバンギャルドスケルトンの本質だと言えそうです。技術は技術を誇示するためではなく、理想とする美しさのために――。新しい歴史の起点となるマイルストーンをぜひその目で確かめてみてください。




関連商品

M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S

M34

M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0001S

¥264,000

(税込)

M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B
M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B

M34

M34 アバンギャルド F8 スケルトン RK-BZ0002B

¥264,000

(税込)