Orient Star 「M45 F7 メカニカルムーンフェイズ」が魅せる モノクロームの幻想的な世界
2024年8月26日
メシエカタログにおいて、“M45”のカタログナンバーを与えられているのが、牡牛座の散開星団であるプレアデスだ。ここ日本では「すばる」の名でも知られており、時や季節を把握するための目印として古くから親しまれてきた。このプレアデスをデザインテーマとしたのがM45コレクション。ケースから緩やかに伸びるラグや、エレガントなローマンインデックス、リーフ形状の針など、オリエントスターがブランドの歴史の中で大切にしてきたデザインエレメントを取り入れることで、プレアデス星団のような、変わらない永遠の時の流れを表現している。 その最新作として、2024年7月にリリースされるのが「M45 F7 メカニカルムーンフェイズ」。前述のような、コレクションに共通する繊細なディテールは踏襲しつつ、本作では、月が地球の周囲を回っている際にプレアデス星団と重なる、“掩蔽(えんぺい)”と呼ばれる情景を描いた。このコンセプトを明快に表しているのが、グレーとブラックのモノトーンでまとめられたルックスだ。しかも、文字盤には夜空を彩る無数の星々を表現した細かい型打ち模様が施されているのだが、光の入射角によってその表情が変化。文字盤には厚いラッピング塗装も施されているため、星の広がる夜空を眺めているかのような奥行き感も楽しませてくれる。
掩蔽を表現するのはそれだけにとどまらない。インデックスの側にはシルバーカラーのもみつけがあしらわれ、これは無数に広がる星々の中でも、ひときわ輝く星を表現したもの。また、ブラックのローマンインデックスは複数回のタコ印刷によって立体感と陰影を生み出しているのだが、それは夜空に浮かぶ雲のようでもあり、このインデックスもまた、掩蔽の情景描写に欠かせないエレメントと言えるだろう。 こうした、オリエントスターに見られる繊細な表現を担っているのが「信州 時の匠工房」。とりわけ、このM45 F7 メカニカルムーンフェイズで特筆すべきなのが、インデックスのタコ印刷と文字盤のラッピング塗装だ。前者はゼラチン製ルーラーを文字盤に押し当てることで、肉盛り感のある文字を表現する技術。特にオリエントスターでは何層にも重ね合わせて印刷するため、立体的で視認性の高いインデックスや目盛りに仕上げられるのだが、1回の印刷作業ごとに乾燥させる必要がある、手間のかかる工程だ。 一方のラッピング塗装もまた、オリエントスターのデザイン表現に欠かせない技術。これは、文字盤の塗装とインデックスをはじめとする印刷部との間に、厚い透明な塗装を施す工程だが、一般的なクリア塗装の何倍もの厚みを加えることによって、印刷と文字盤の塗装との間に距離が生まれる。そのため、本作のような宇宙をデザインテーマとしたタイムピースでは、より奥行き感のある表現が可能になるのだ。
もちろん、M45 F7 メカニカルムーンフェイズは、文字盤以外のディテールも丁寧に仕上げられ、幻想的なデザインと実用性の高さを両立させている。そのひとつが、リーフ型の時分針。針の稜線を境にサテンとポリッシュで仕上げ分けされているため、ダークトーンの文字盤でも確実に時刻を判読できるようにしている。また、黒めっきで仕上げられたステンレススティール製のケースは、古くから変わることのない夜空を表現したものだが、それは同時に、時計に精悍かつモダンな印象を与えることにもつながった。その斬新なルックスは間違いなく、エッジの効いたデザインを好む愛好家のハートを掴むことだろう。
搭載されるムーブメントは、ムーンフェイズ機能がついたCal.F7M65。日差+15秒〜−5秒の高い精度に加え、50時間以上のパワーリザーブを実現している。このムーブメントも丁寧に面取りが施されたローターを備え、その姿をシースルーバックから眺められるようになっている。
掩蔽をコンセプトにグレーとブラックのモノトーンでまとめ上げたM45 F7 メカニカルムーンフェイズ。文字盤の型打ち模様や奥行きを感じさせるラッピング塗装、繊細ながらも立体感のあるインデックスなど、ディテールの一つひとつに手の込んだ加工を施すことで、直径わずか41mmサイズの時計に広大な宇宙のロマンを凝縮しつつ、時計にモダンかつクールな雰囲気を漂わせることにもつながった。オリエントスターらしいコンセプトと同時代性を併せ持った快作である。