STAR MOMENTS #04
オリエントスターと旅するエッセイコラム
2024年2月2日
僕たちは地上を旅する星
赤阪 友昭/写真家・映画監督
2022年、ドキュメンタリー映画『銀鏡
SHIROMI』を公開した。この作品は、九州の山深い里に500年以上前から伝わる「星の神楽」の銀鏡神楽とそれを伝承する人々の暮らしに寄り添い撮影したものだ。銀鏡神楽は、厳冬の12月に夜を徹して舞う夜神楽で、北極星を中心に星々へ祈りを捧げ、宇宙全体が健やかであることで太陽や月が与えてくれる恵みに感謝する神事である。
星への祈りー、人はなぜ星に祈りを捧げるのだろう?
映画の撮影中、仕事でハワイのカウアイ島に行くことになり、ハワイ王朝と繋がる系譜のクム・フラ(フラの先生)に取材することができた。彼女によれば、祈りを捧げるチャント(歌)はその音階で歌の響きを振動に変え、舞うことで空間に響きを共振させ、舞の振りで祖先が住まうマカリイ(昴・プレアデス星団)へとその振動を届けるのがフラだという。だから、フラを舞うのは闇の中、星々の下でなければならない。フラは、歌と舞を通して産み出したバイブレーションを媒介に、星々にいる祖先へ祈りを捧げるためにある。まるで銀鏡の夜神楽そのままではないか。
祖先の住まう処、それはすなわち僕たちの生命が寄り来る原郷でもある。銀鏡神楽も古式フラも、それは星だという。人の体や他の生き物すべてを構成する主成分は炭素であり、それは星ができる過程で作られる。いろんな元素もそうだ。そういう意味では、僕たちはみんな星のかけらからできている、とも云える。この言葉は、映画にも出演してくださった理論物理学者の佐治晴夫先生の受け売りだ。人は、星から来て、この地球にわずかの間住まいして、やがて星へと還る。つまり、星への祈りとは、僕たちの命への祈りに他ならない。
そう。僕たちは地上を旅する星なのだ。
What‘s STAR MOMENTS
ひとの暮らしと時間や星空、そして宇宙と物語は、 オリエントスターの哲学そのものです。
「STAR MOMENTS」では、 時間や星空、宇宙の関係を人生や暮らしの視点から捉えて探究し、第一線で活躍する方々を書き手にお招きして、 各コレクションの表面的な魅力にとどまらない、オリエントスターの新しい発見や驚きを見つけるエッセイコラムです。
(プロフィール)
赤阪 友昭 Tomoaki Akasaka
米国チュレーン大学法律大学院修士課程修了後、米国国際会計事務所、国内法律事務所勤務を経て、阪神淡路の震災を機に写真界へ異色の転身。狩猟採集や遊牧を生業とする先住民や遊牧民の生活やそれを支える精神世界に魅せられ辺境への旅をはじめる。雑誌やメディア、国立民族学博物館など公共施設での写真展やプログラム制作などに作品を提供し、国際文化交流プロジェクトの企画·実施、写真ギャラリーの運営など活動は多岐にわたる。東日本の震災後は、福島県の立入制限区域内で撮影を続け、福烏県南相馬市と短編映像「水の記憶、土の記憶」を共同制作する。映画関係では、ドキュメンタリー映画 「新しい野生の地—リワイルディング」(オランダ)の日本語版を制作し、全国で劃場公開。2022年には、「星への祈り」をテーマにしたドキュメンタリー映画『銀鏡 SHIROMI』を制作·監督し、全国にて劇場公開。本作品は、東京ドキュメンタリー映画祭において人類学・·民族映像部門でグランプリを受賞している。