“目指したのは現代的な日月四季山水図”日本画家・西野正望さんが語るビジュアル制作の舞台裏と創作の共通項
2023年12月27日
文字板に白蝶貝を使用した「M45F7メカニカルムーンフェイズ」は、光の当たり方で多彩な表情を見せる文字板の美しさと、6時位置に搭載したムーンフェイズ機構を特徴とするモデルです。2022年に最初のモデルを発表したところユーザーの皆さんからご好評をいただき、今年2023年には第3作が登場しました。これら3部作の広告ビジュアルを描いてくださったのが、日本画家の西野正望さんです。伝統の美を現代の感性で表現する西野さんに、日本画の魅力、ビジュアル制作の舞台裏、そしてアートと腕時計に共通する力について伺います。
プロジェクター協力:エプソン販売(EPSON EB-L1405U)
ここに注目すると日本画はもっと面白くなる
「日本画という呼び名が生まれたのは、実は明治以降なんですよ」
日本画の成り立ちについてそう切り出すのは、日本画家の西野正望さんです。西野さんは伝統的な日本画の技法と現代アートを融合した創作活動を行い、また昨年からはオリエントスターの「M45 F7 メカニカルムーンフェイズ」の広告ビジュアルを描いてくださった画家です。
西野さんによると、古来、日本には大和絵や狩野派、琳派や浮世絵など、いろいろな流派や画風がありましたが、江戸時代末期に幕府が倒れて明治維新が起こると、幕府お抱えの狩野派などの絵師たちが職を失い、西洋化が一気に進んで油絵などの西洋美術が入ってきました。そうした状況から日本美術を復興しようと、思想家の岡倉天心とフェノロサが新しい日本美術の立ち上げを行いました。その際に用いられたのが“日本画”というワードだったのです。
「開国後しばらく経ってから西洋の写実画や印象派などの油絵が本格的に日本に入ってきました。すると日本も西洋に負けない絵を描こうという機運が高まって、新しい日本の絵画を模索し始めます。それまでの日本の絵は襖や屏風、扇子や皿、着物など、何かしらに付随するものでした。屏風はインテリアだし、掛け軸も限りなく壁に近いですし、障壁画も壁紙の一種ですよね。それが、油絵が入ってきたことでタブロー、要するに額縁に入れる絵に変わったのです。表現に関しても、それまでの日本の絵は線が魅力だったのですが、その線を一度排除して、ぼかしたような朦朧体(もうろうたい)と揶揄された絵を描き始めます。最初は一般の人々に不評だったのですが、徐々に評価されて日本画というものが認められるようになったのです」
西野さんが主に創作するものの一つは、日本画の中でも大和絵(やまとえ)と呼ばれる分野のもの。1000年以上も前の平安時代から発達した絵画で、日本画の元祖といえるものです。現代に生きる自分が過去に立ち戻り、現代と地続きとしてあり、未来へと続く大和絵の魅力を問い直したいという思いで創作に向き合っているそうです。
「先ほどの線の美しさに加えて、岩絵具も大和絵の大きな魅力です。天然の岩絵具は、まさに地球の歴史そのものなんですよ。天然の土を擦りつぶしたり、天然の岩石を細かく砕いたりして絵具を作りますが、その素材自体がもう、地球の蓄積された時間です。それ自体にパワーが宿るという人もいますし、準宝石の岩石を砕いて作る群青はアズライト、緑青は孔雀石と呼ばれるマラカイトからできていて実際に見てみるとキラキラした粒子の美しいニュアンスがある。天然の岩絵具は準宝石レベルの岩石からそうでない岩石まで供給が不安定なので、巡り合わせといいますか、一期一会のような出会いも面白くて、こんないい石のロットの岩絵具が手に入ったからこんな絵を描こう、という発想で創作することもあります。あとは、金や銀を使うのも大和絵の面白い部分ですよね。西洋では、宗教画などに金箔を貼ることはありますが、日本の絵のように風景画や花の絵に使った例はあまり見ません」
線描と岩絵具の彩色面、そして金銀の箔、支持体の和紙や絹、膠(にわか)などの素材に注目してみると、大和絵の美しさがより実感できるそうです。そしてもう一つ、西野さんが面白いと感じるのが「絵巻」様式です。
「絵巻は物語時間をテーマにした、いわば映画などと同じような時間軸のアート。巻物を開くと、まずは詞書というストーリーがあって、その次にビジュアルというように横にスクロールして鑑賞する。有名なのは『源氏物語絵巻』、あとは皆さんご存じの『鳥獣戯画』もそうですね。漫画やアニメの原点なんて言われています。あと、時間の概念を考えさせられるのが『日月四季山水図屏風』という作品です。六曲一双屏風の一つの絵の中に日本の四季を描いた作品で、春に始まって夏、秋、冬、そしてまた春と、時間がぐるぐると円形に巡っていくんですよ。今は、時間は“流れる”というイメージがありますが、昔の人は“巡る”という概念の方が強かったんじゃないかな。そんなことを考えさせられる作品です」
フェイスを見た瞬間に“大和絵だ”と感じた
その西野さんに対して、オリエントスターが「M45 F7
メカニカルムーンフェイズ」の広告ビジュアルを描いて欲しいというオファーを出したのが2022年のこと。それまで自動車や飲料メーカーのビジュアルを描いた経験はあった西野さんでしたが、腕時計の広告ビジュアルは初めてだったそうです。
「時間はずっと気にしてきたことなので、これは運命的なものかな、貴重な経験になりそうだなと感じました。同時に、時間についてもっと考えなさいと言われているような気もしましたね(笑)」
M45 F7 メカニカルムーンフェイズは、月相を示すムーンフェイズ機構と、ぜんまいの残量を示すパワーリザーブインジケーターを搭載したモデルです。2022年に文字板に真珠母貝(マザー・オブ・パール)を使用した情緒的なモデルを発表し、2023年にはその第3作が登場しました。光の当たり方によってさまざまな表情を見せる文字板とムーンフェイズ機構を見て、西野さんのイメージが一気に広がっていったそうです。
「時計のフェイスを見た瞬間にぴんときたんですよ。文字板のきらきらした感じは水面のようで、その中で月が満月になったり新月になったり、時間が巡っている。月の手前の2つの膨らみは山のように見えてきました。風景みたいな時計だなと思っていたら、ふと、これは大和絵だなと感じたのです。自分がリスペクトする『日月四季山水図』に似たものがあるなと。そこから『日月四季山水図』を現代的に表現するというテーマが生まれたのです」
とりわけ西野さんの好奇心をくすぐったのは、ムーンフェイズ機構だったそうです。
「小さい頃から月や宇宙は大好きで、好きな映画は今でも『2001年宇宙の旅』。大和絵にも月が描かれたものが結構あるので、それで今回も月には妙に惹かれてしまって。今年制作した第3作は、月をだいぶ大きくして、雲がかかっている様子を赤金と青金という2種の金箔で表現しました」
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