「探検は知的情熱の肉体的表現である」

小久保 英一郎／天文学者

スコット南極探検隊に参加した動物学者Apsley Cherry-Garrard (1886-1959)の言葉だ。僕が二十代の頃、ダイビングの師匠が教えてくれた。この言葉に出会って、自分がなぜ海に潜るのか、山に登るのか、そして旅をするのか、自分の行動原理がくっきりと見えた気がした。

幼い頃から僕は、探検家に憧れていた。本やテレビで見た探検隊は、未知の生物や遺跡を求めて、ジャングルを、砂漠を、海をキャラバンしていく。NHK特集『シルクロード』が好きだった。『川口浩探検隊シリーズ』も毎回見ていた。自分も探検隊に必ずいる科学者として、こんな探検がしてみたいと憧れていた。

今、天文学の研究を生業としているが、これも僕にとっては探検の一つだ。理論天文学者の僕は、未知の宇宙へ、頭とコンピュータを使って挑んでいる。本当に自然の中で体を使って探検したくなるときには、海に潜ったり、山に登ったりする。体を張った探検は心のバランスを保つのに必須だと思っている。

なぜ探検にこんなにも惹かれるのだろうか。知らない世界を見たい、世界の理(ことわり)に触れたい、という思いがある。でももしかしたら、もっと簡単なことかもしれない。いつも新しい何かに、わくわくどきどきしていたいのだ。

例えば、初めての海に潜るとき。港からボートで沖を目指す。水平線まで広がる海と空。これから潜る水の中を思いながら風に吹かれているとき、探検家の心は満たされている。