チョウチョウウオを追って

小久保 英一郎／天文学者

チョウチョウウオ、という主に熱帯のサンゴ礁に分布している小型の魚がいる。黄色など鮮やかな色をしていて、同じく色とりどりのサンゴを花に見立てると、まさに蝶だ。現在、世界で約130種が知られている。僕のダイバーとしての夢は、全てのチョウチョウウオと一緒に泳ぐことだ。はまったきっかけは、ウミヅキチョウチョウウオだった。黄色の体に白で円と2本の線が描かれている。円は月、2本の線は水平線と寄せる波、まるで月夜浜である。その風雅な姿に魅せられて、僕のチョウチョウウオを探す旅が始まった。

ハワイ島、旧コナ空港前のビーチ。僕は静かに海を見ていた。この海にはティンカーチョウチョウウオ(Tinker's Butterflyfish)という固有種が住んでいる。体は対角線で白と黒に塗り分けられ、目の周りと尾は黄色い。ハワイに行ったら絶対会いたいと思っていた。しかし、少し深い海に住むため、見たことがあるダイバーはほぼいない。もしかしたら旧コナ空港海洋生物保護地区ならいるかもしれないと地元ダイバーが教えてくれた。沖を目指して泳ぎだす。しばらくサンゴを下に見ながら水面を移動し、深くなってガレ場が始まってから潜航する。水はきれいだった。だんだん深くなり色が褪せてくる。白い砂と黒い岩の緩やかな斜面がどこまでも広がっている。はるか上に水面が明るい。とてつもなく大きくて静かな世界にぽっかり僕一人。そのとき、遠くにちょろちょろ動く小さな白黒のツートンカラーが見えた。もしかして、やっぱり、ティンカーだ! 2匹いる、ペアだ!ティンカーのペアも僕の存在に気がついた。僕に向かって泳いでくる!そして僕の周りを興味深そうに泳ぎ回る。やっと会えたね、喜びが爆発する。

これまで78種のチョウチョウウオと泳いできた。すでに日本産のチョウチョウウオは制覇して、残りはあと50数種。しかし、全種と泳ぐのはどうやら難しそうだ。ウラシマチョウチョウウオという絶妙な名前のチョウチョウウオがいるのだが、彼らは水深数100 mの海に住んでいる。つまり、会いに行くのは片道切符ということか。

次はどんなチョウチョウウオに会えるだろう。僕は潜り続ける。