[Dr.OSのやさしい機械式時計ライフ]
Vol.2 普段使いで特に気を付けたい3つのポイントとは?

2022年07月04日

機械式時計は日頃の使い方やメンテナンス次第で、長年使用できるプロダクトです。オリエントスターが目指しているのは、ユーザーの皆さんにできる限り長く機械式時計を楽しんでいただくこと。そのために役立つ情報を、オリエントスターが誇るメンテナンスのプロフェッショナル、Dr.OS(ドクター・オーエス)がお届けします。今回は、機械式時計の不具合を防ぐために特に注意してほしい3つのポイントをお伝えします。

文: with ORIENT STAR 編集部



機械式時計は身に着ける精密機器


――Dr. OSさん、今回は機械式時計を長く使うための日頃の注意点について教えてください。普段、日常生活で使用する際に気を付けたほうがいいことはどんなことですか。


Dr. OS(以下略) では、今回は機械式時計の不具合の原因から注意点を見てみましょう。私たちオリエントスターの修理センターに送られてくる腕時計の多くが、ある3つの取り扱いに起因しているものです。さて、何だと思いますか?


――精密機器だから……落としたり、ぶつけたりですか?

正解! 最も多いのが衝撃による不具合です。機械式時計が強い衝撃を受けると、外側のケースのキズやガラスの割れなどがなくても、内部機構(ムーブメント)のテンプという精度を司る部品がダメージを受けて精度が悪化したり、止まってしまうという不具合が発生する可能性があります。

――見た目には分からなくても、内部機構がダメージを受けているのですね。

そうなんです。衝撃の予防策はとてもシンプルで、とにかく落とさないことや、勢いよくぶつけないこと。急いでいる時などは、つい歩きながら時計を着けたり外したりしてしまいがちですが、手元が滑って時計を落としかねないので、できる限り避けた方がいいでしょう。 また、野球やテニスなどのスポーツをするときはもちろん、ジムでのトレーニングやエクササイズの際にも時計は外したほうがよいですね。時計は精密機器ですので、なるべく衝撃を与えないよう、常に愛情を持って接することが大事ですね。

 
精度を司るテンプの拡大図。中央にある「ひげゼンマイ」というパーツが時計の精度を大きく左右する。写真左は、ゼンマイの間隔が一定ではなく、精度が安定しない状態。写真右は、ゼンマイの間隔が一定=精度も安定した状態
精度測定器での検査結果。左写真はひげゼンマイの間隔が一定ではない状態。グラフが右下がりになっており、遅れが発生していることを示している。右写真はひげゼンマイの間隔が一定の状態。グラフが水平に推移し、精度が安定していることを示している


――精密機器ととらえると予防策がイメージしやすいですね。

それに関連して、バンドの長さもポイントです。時計のバンドが緩すぎるとぶつけやすくなり、またぐらつくのでバンド自体にも負荷がかかってしまいます。その点からも適切な長さを推奨しています。一般的にはメタルバンドの場合、時計を着けて指一本が入るくらいの長さが適切と言われています。

防水仕様でも、油断は禁物


――衝撃の他には、どんなことに気を付けたら良いでしょうか。

時計の性能を語るうえで精度と同じくらい重要なのが防水性です。水というと汗や雨をイメージするかもしれませんが、日常生活用防水以上の時計は全て、メーカーにて出荷前に防水試験をしていますのでそれほど気にかけなくて大丈夫です。汗や雨で濡れてしまったら拭いておくといいでしょう。

――どんな時に水が入ることが多いのでしょう?

水による不具合で意外と多いのが、時計を着けたままお風呂に入ってしまうケースです。高温多湿の環境や、石鹸やシャンプーの成分がパッキンの劣化を早め防水性能が低下するため、お風呂やサウナでは必ず時計を外すようにしましょう。 また、シャワーの水圧は意外に強く、りゅうずなどから水が侵入する可能性があります。水圧といえば車の洗車や庭木への水やり、プールに入る時、あとは手洗いをする際なども気を付けましょう。

――時計に水が入ってしまうとどうなるのですか。

機械式時計の内部機構のほとんどは金属パーツで出来ていますので、万が一水が内部に侵入してしまうとそれらが腐食する場合があります。そうなってしまうとパーツ交換が必要です。さらに、昔の時計で部品が残っていないものは修理ができなくなってしまうことがまれにあります。

水の侵入を防ぐため時計にはパッキンが備わっている。上2点はパッキン全体、下2点はその拡大画像。左側の写真が劣化したもの、右側が未使用のもの。拡大して表面を見てみると、劣化したものはつやがなく損傷しており、未使用のものはつやがありなめらか


パソコンやタブレットの上に置いていませんか?


――なるほど水には注意ですね。では、最後の不具合の原因はどんなことですか。

最後は磁気による不具合です。時計のムーブメントを構成する金属パーツが磁気を帯びてしまい、時刻を正確に刻めなくなってしまう症状です。 これを防ぐ対策は、磁気を発するものに時計を近づけないこと。身近なものではスマホ、タブレット、パソコンといったデジタルツールで、ほかにも磁気を使ったネックレスや健康器具、電磁調理器、スピーカー、小物や鞄に付いているマグネット類にも要注意です。目安として、磁気を発するものから5cm以上離すようにしてください。

――磁気帯びしてしまったかどうかを見分ける方法はありますか。

磁気は目に見えないので、残念ながらひと目見ただけでは分かりません。いつも通り着けていて、時刻がずれやすくなったなと感じたら、磁気帯びを疑ってみるといいでしょう。クオーツ式時計の場合は時刻が遅れることが多く、機械式時計の場合は進むケースがほとんどです。

――磁気帯びを取り除いて、正常な状態に戻すにはどうすればいいのですか。

オリエントスターの「オーバーホールサービス」や「リフレッシュ&チェックアップサービス」をご利用いただければ磁気を帯びていてもキレイサッパリ取り除けます。with ORIENT STARで時計をご購入いただくと、それらのサービスがお得にご利用いただけます。
また、お近くの時計販売店や修理サービス店でも相談に乗ってくれるかもしれません。

with ORIENT STAR サービスインクルーシブ


――磁気帯びかなと思ったらプロに相談ですね。

それがいいと思います。
最後にもう一つ、時計を長持ちさせるコツをご紹介しましょう。「水」のところでもお話ししましたが、雨などで濡れてしまった場合や汗をかいた時にはそれらの水分をハンカチなどで拭いてください。ちょっとした汚れや水分が劣化につながっていくので、汚れを残さないだけでもだいぶ長持ちしますよ。

――腕時計を日頃から拭くというのは、あまり意識していませんでした。

例えば、眼鏡って濡れたり汚れたりしたらきれいに拭いて、清潔に保ちますよね。それと同じことだと考えてみてください。眼鏡を拭く時は腕時計も一緒に拭く、というような習慣を付けるといいかもしれませんね。

――それなら続けられそうですね。今回は、衝撃、水、磁気というデイリーケアのポイントがよく分かりました。どうもありがとうございました。

機械式時計は、ちょっとした心掛けや日々の手入れで、より長く使用することができるプロダクトです。ぜひ3つのポイントに留意して機械式時計ライフを楽しんでください。